% \documentclass{amsart} \documentclass[dvipdfmx]{jsarticle} \usepackage[left=2cm, right=2cm]{geometry} \usepackage[utf8]{inputenc} \usepackage{amsfonts, amsthm, amssymb, mathtools,etoolbox} \usepackage[dvipdfmx]{graphicx} \usepackage{blindtext} \usepackage[colorlinks=true, urlcolor=blue, linkcolor=blue, citecolor=blue]{hyperref} \usepackage{tikz,tikz-cd} \usepackage{cleveref} \usepackage{array} \usepackage[style=alphabetic,sorting=nyt]{biblatex} \renewbibmacro{in:}{} % \addbibresource{biblio.bib} \addbibresource{CommonBiblio20240922.bib} \tikzset{pullback/.style={minimum size=1.2ex,path picture={ \draw[opacity=1,black,-,#1] (-0.5ex,-0.5ex) -- (0.5ex,-0.5ex) -- (0.5ex,0.5ex);% }}} \usetikzlibrary{calc} \theoremstyle{plain} \newtheorem{theorem}{Theorem}[section] \newtheorem{proposition}[theorem]{Proposition} \newtheorem{lemma}[theorem]{Lemma} \newtheorem{corollary}[theorem]{Corollary} \newtheorem{todo}[theorem]{Todo} \newtheorem{conjecture}[theorem]{Conjecture} \newtheorem{fact}[theorem]{Fact} \theoremstyle{definition} \newtheorem{example}[theorem]{Example} \newtheorem{definition}[theorem]{Definition} \newtheorem{remark}[theorem]{Remark} \newtheorem{notation}[theorem]{Notation} \newtheorem{question}[theorem]{Question} \newtheorem{idea}[theorem]{Idea} \newcommand{\dq}[1]{``#1"} \newcommand{\memo}[1]{\textcolor{red}{memo: #1}} \newcommand{\invmemo}[1]{\textcolor{blue}{memo: #1}} \newcommand{\para}[1]{\paragraph{\textbf{#1}}} \newcommand{\N}{\mathbb{N}} \newcommand{\Z}{\mathbb{Z}} \newcommand{\Q}{\mathbb{Q}} \newcommand{\R}{\mathbb{R}} \newcommand{\C}{\mathcal{C}} \newcommand{\D}{\mathcal{D}} \newcommand{\E}{\mathcal{E}} \newcommand{\F}{\mathcal{F}} \newcommand{\id}{\mathrm{id}} \newcommand{\op}{\mathrm{op}} \newcommand{\ob}{\mathrm{ob}} \newcommand{\Set}{\mathbf{Set}} \newcommand{\Vect}{\mathbf{Vect}} \newcommand{\FinSet}{\mathbf{FinSet}} \newcommand{\PSh}{\mathbf{PSh}} \newcommand{\Sh}{\mathbf{Sh}} \newcommand{\Cont}{\mathbf{Cont}} \newcommand{\Func}[2]{[#1,#2]} \newcommand{\abs}[1]{\left|#1\right|} \newcommand{\demph}[1]{\textbf{#1}} \font\maljapanese=dmjhira at 2.5ex \newcommand{\yo}{\textrm{\!\maljapanese\char"48}} \newcommand{\Pow}{\mathcal{P}} \title{圏論ではいろいろな矢印が登場しますが,それぞれの矢印の意味について教えてください} \author{洞龍弥} % \thanks{Graduate School of Mathematical Sciences, University of Tokyo. \url{hora@ms.u-tokyo}} % % \date{\today} % \subjclass[2020]{MSC} % \keywords{Keywords} \begin{document} % \begin{abstract} % \end{abstract} \maketitle \section{射,関手,自然変換の重要性} 圏論には多くの種類の矢印が登場します.その中でも,どんな圏論の教科書にも現れる代表的なものは射,関手,自然変換の3つでしょう.多くのより発展的な圏論の概念---例えば随伴,モナド,Kan拡張など---はこの3つを用いて定義されますから,この三つをマスターすれば圏論に入門したと言っていいと思います. この記事では,射,関手,自然変換という「矢印の三重構造」がいかにして数学の至る所に潜んでいるのかを,圏を知ったばかりの読者に伝えることを目的としています. 形式的な定義を知るだけなら教科書を見れば良いので,この記事ではむしろ気持ちに注目することにし,特定の具体例と特定のスローガンで親しみを持ってもらうことを目指します.もちろん,これは一個人が恣意的に一つの側面を切り取ったものですから,形式的で抽象的な圏論の良さ---多様な文脈の中で多様に解釈がなされるという良さ---に真っ向から反するスタイルであり,断腸の思いです.しかし,「矢印の三重構造」が意外とすぐそばにあることを知ってほしいと思い,非常に素朴な自然変換の例\[1+x \leq e^x\] % \[\lfloor x\rfloor \leq \lceil x\rceil\] の話をしようと思います. \subsection{射の重要性 「射を考えよ」} あなたがすでに圏論を少し学んでいるのであれば,圏論で最初に強調されるスローガンが「射の重要性」であることを既にご存知かもしれません.圏は対象と射のなすシステムとして定義されますが,一般的に「射は対象より重要である」と言われがちでしょう. このスローガンは,数学的対象を考える際にその間の射の概念を明確にせよと主張しています.例えば,位相空間を考えるときは連続写像を,群を考えるときは群準同型を,線型空間を考えるときは線型写像を考えよということです.射を考えることで対象同士がどのように関わるのか(例えば,どの二つの対象を同一視するのか,など)が明確になります.さらに,射を考えることで,他の数学的対象との関係性(=普遍性)を用いて対象を定義する,などといったことが可能になります. \begin{figure}[ht] \centering \includegraphics[width=0.5\linewidth]{0827cat.jpeg} \caption{圏} \label{fig:Cat} \end{figure} 射は,普通一つの圏の中で考えます.数学者同士の会話で,「それはどこの射ですか?」という質問が飛び出しますが,この質問での意図は「話題になっている射がどの圏に属するのか(≒対象のどんな構造に着目しているのか)を教えてくれ」というものです.主観的には,圏というのは同種の数学的対象が集まっている島のようなもの(\Cref{fig:Cat})で, その中で対象は他の対象たちと射によってネットワークをなして蠢いている,というイメージを(圏に抱く多くのイメージの一つとして)持っています. 素朴な圏の例として,順序集合があります.例えば順序集合$\Z$は,それぞれの整数が対象で,大小関係$x\leq y$が$x$から$y$への射であるような圏だと思えます.圏$\Z$のなかで,整数たちが射$\leq$で関係づけられて一直線に並んでいる様子を思い浮かべてください.同様に実数$\R$も順序で圏だと思えます. \subsection{関手= 圏の射} 「射の重要性」という観点に立つなら,射のなすシステムである圏は非常に便利な道具になります.一方で,射の言葉で数学をする利便性に触れると,新たな不満も出てきます.圏自体も数学的対象であることに気がつくと,新たな問いが生まれます.「圏という数学的対象の射は何なのか」という問いです.圏それ自体も圏論的に扱えないのか?「圏の射」とは何なのか?その答えこそが関手です\footnote{これは,圏,関手,自然変換が生まれた歴史的経緯ではありません.}. \begin{figure}[ht] \centering \includegraphics[width=1\linewidth]{0828Functor.jpeg} \caption{関手} \label{fig:functor} \end{figure} 「関手」はある圏から別の圏への変換を表しています。つまり,関手$F\colon \C \to \D$というのはある圏$\C$の対象と射を別の圏$\D$の対象と射にうつす変換であって,いくつかの条件---端的に言えば\dq{射の構造を保つ}という条件---を満たすもののことを言います (\Cref{fig:functor}).一つの圏$\C$の中から飛び出して別の圏$\D$の中へ移る、ダイナミックな行為であり,それでいて対象同士の関係性を破壊しない繊細な操作でもあります.圏を島に例えるなら,関手は島の間を移動する一方通行ワープゾーンのようなもので,島$C$の対象が入ると別の島$D$の姿になってワープゾーンから出てきます.関係性は破壊しないので,手を繋いでワープすれば,姿形は違えど手を繋いだ状態で出てきます.もちろんただの比喩です. 現代数学では、空間の圏から代数の圏への関手など、文字通り分野の垣根を超えた関手が活躍しています。圏の境目を飛び越えて,ある分野での問題を別の分野の計算で解決する,と聞くと魅力的に聞こえるでしょうか.最も素朴な応用は,非同型性(二つの数学的対象$X,Y$が本質的に別物であること)の証明です.(非同型性の証明というものは,多くの場合同型性の証明よりも厄介なものです.同型性の証明であれば,同一視する方法を$1$つ持ってくればいいのに対し,非同型性の証明ではどのような方法でも同一視できないことを示さないといけない,つまり非存在の証明をしないといけないからです.) この困難は多くの場合(明示的にか暗示的にか)関手によって解決されます.圏$\C$の中にいる対象$X,Y$が同型だと仮定すると,関手$F\colon \C \to \D$を適用した$FX, FY$も圏$D$の中で同型になることが証明できます.従って対偶を考えると,$FX, FY$が圏$D$の中で同型にならないことを示せば,$X,Y$が同型でないことが証明できるのです! (現実には,上手い関手$F\colon \C \to \D$を作るところこそが難しいのですが.) % うまく圏$D$と関手$F$をとれば, % 今回の$\R$の例では移り先が自分自身と一致していてシャボく見えるかもしれません。 では、$\R$から$\Z$への関手は何でしょうか? 関手の定義を参照すれば、これは$\R$から$\Z$への順序を保つ写像に他ならないことをチェックできるでしょう。例えば、$f(x)=\lfloor x\rfloor, \lceil x\rceil$ などは$\R$から$\Z$への関手の例です。実数を整数に変化させるが,順序構造は保っています.$x\leq y \implies \lfloor x\rfloor \leq \lfloor y\rfloor$ 同様に,$f(x)=x,1+x,e^x$ など広義単調増加関数は$\R$から$\R$への関手だと思えます. % では、$\R$から$\Z$への関手は何でしょうか? 関手の定義を参照すれば、これは$\R$から$\Z$への広義単調増加関数に他ならないことをチェックできるでしょう。例えば、$f(x)=x,1+x,e^x$ などは$\R$から$\R$への関手の例です。 \subsection{自然変換= 関手の射} 関手が「圏の射は何なのか?」というメタ質問の答えだったのと同様に,自然変換は「関手の射は何なのか?」というメタ質問の答えです.関手が圏から別の圏へのダイナミックな変換であったのに対し,自然変換はそのような二つの関手を比較するための道具だと言えます.例えば,二つの関手をどんな時に「本質的に同じ」と思うのかは,自然変換の概念を用いて定義されます.詳細は教科書に譲りますが,図示すると\Cref{fig:natra}のようになります.これで遂に3種類の矢印が全て現れました!自然変換は慣習的に二重矢印$\Rightarrow$で表記されます. \begin{figure}[ht] \centering \includegraphics[width=0.75\linewidth]{0828Nattra.jpeg} \caption{自然変換} \label{fig:natra} \end{figure} % に移行し,その答えが自然変換です. % いわば,関手や自然変換は「射の重要性」というスローガンを忠実に,そしてメタ的に適用したときに自然に現れる対象なのです. % \section{定義と具体例} % 3つの質的に異なる矢印が現れる、と聞くと何やら高度にメタ的で抽象的な存在だと思われるかもしれません。ただ、このような三重構造は実は至る所に現れています。ここでは、\dq{普通の圏論}とはあまり見做されないような例を見てみましょう。(普通の例は圏論の教科書を見てください) 結論から言えば、不等式 $1+x\leq e^x$は自然変換なのです! % まず、「射」の例を見てみましょう。実数$\R$は、実数を対象、不等号を射として圏になります。順序集合は圏、というやつです。例えば、$0,1,e,\pi$などは圏$\R$の対象で、不等式$0\leq 1$とか$e\leq \pi$などは、圏$\R$の射です。このように、「射」は一つの圏の中で、対象同士の相互関係を表します。圏$\R$の場合では、実数同士の大小関係を表しています。 % では、この場合の「関手」の例を見てみましょう。$\R$から$\R$への関手は何でしょうか? 関手の定義を参照すれば、これは$\R$から$\R$への広義単調増加関数に他ならないことをチェックできるでしょう。例えば、$f(x)=x,1+x,e^x$ などは$\R$から$\R$への関手の例です。このように、 広義単調増加関数$f,g\colon \R\to \R$を$\R$から$\R$への関手と思うなら,その間の自然変換は不等式$f(x)\leq g(x)$のことです。例えば不等式$1+x\leq e^x$は関手$1+x\colon \R \to \R$から関手$e^x\colon \R \to \R$への自然変換だと思うことができます(\Cref{fig:realExample}).この場合,射は個々の実数間の大小関係$-1<0